我が家は車なし生活を前提に奈良で暮らし、奈良で子育てをして8年目になります。奈良市内は車なしでも生活がしやすい環境ですが、それでも車がなくて不便だなと思うことがありました。
今回は、なかでも特に大変だと感じた「子供の体調不良時の病院へのアクセス」について実体験をもとにリアルに感じた不便さをお話しします。
病院は近くにあるはずだった

子どもが体調を崩した日、「病院は近くにあるはずなのに、今日はやけに遠いな」と感じました。
私の家から一番近い病院は、猿沢池の横あたりにあります。
距離にすると、子供連れで徒歩で20〜30分ほど。元気な日なら、散歩がてら歩ける距離です。
けれどその日は、発熱してぐったりした子どもを連れて、
観光客と鹿で混み合う興福寺を通り抜け、大階段を下りていかなければなりませんでした。
「行けない距離ではない」
そう言われれば、確かにその通りかもしれません。
でも、
「行ける」と「連れて行ける」は、まったく別でした。
ちなみに最寄りのバス停からバスを利用しようと思っても、近鉄奈良駅のある大通り沿いにしかバスはなく最寄りとは言い難いです。正直バス停まで歩いてバス待ちをした上で徒歩で病院に向かう時間を考えると、全部歩いたほうがはやいです。
ベビーカーでも、抱っこ紐でも行けない年齢

このとき、子どもは4歳を過ぎていました。
- ベビーカーはもう使えない
- 抱っこ紐は重くて現実的ではない
- 歩かせるには明らかにつらそう
この年齢帯は、移動手段が一気に不安定になる時期です。
赤ちゃんの頃なら、
ベビーカーや抱っこで何とかなった。
もう少し大きければ、
体調が悪くても少しは自分で歩ける。
でも4〜6歳ごろは、
「自分では歩けないけれど、親が抱え続けるのも難しい」
ちょうどその狭間にあります。
子供のせのついた自転車があれば話は別だったかもしれません。
でも、徒歩で成り立つ生活を前提にして奈良に移住してきた私たち家族には、自転車も日常生活では必需品ではなかったため、そもそも購入していませんでした。
徒歩20分は、元気な日限定の距離だった
徒歩20〜30分。
数字だけ見れば、大した距離ではありません。
でもそれは、
- 元気な大人が
- 天気のいい日に
- 自分一人で歩く
ときの話です。
体調不良の子どもを連れて歩くとなると、
- 途中で座り込むかもしれない
- 帰りはさらにしんどくなる
- 観光客や鹿で思うように進めない
常に「途中で無理になったらどうしよう」という不安がつきまといます。
この時点で、その病院は私にとって徒歩圏ではありませんでした。
医療費500円より重かった、移動の負担

結局その日は、タクシーを呼びました。
片道およそ1200円。
往復で2400円ほど。
奈良市では、小学校入学前の子どもの医療費は500円で受診できます。
薬も出ますし、制度としてはとてもありがたいと思っています。
ただそのとき、正直に感じたのは、
医療費より、移動費の方がずっと重い
ということでした。
「今日はやめておこうか」
そんな判断が頭をよぎるのは、
受診料が500円だからではなく、
そこにたどり着くまでの負担が大きすぎるからでした。
「コンビニ受診」とは、まったく違う
最近、医療費の議論の中で
「コンビニ受診」という言葉を見かけることがあります。
でも、
観光客と鹿をかき分け、階段を下り、体調不良の子どもを連れて病院に向かうこの行為は、
とても
「気軽」「ついで」「散歩がてら」
とは呼べません。
少なくとも、私の体験とはまったく重なりませんでした。
支援があっても、使えないものは使えない

以前、別の用件で
「あとから申請すれば補助が出る」という制度を使おうとしたことがあります。
けれど、市役所に申請に行ったら申請書類が足りず後日郵送で送ることに。
- 帰宅後に書類を書く
- 必要書類をそろえる
- 郵送する
その手間を思うと、
結局やらずに終わってしまいました。
子どもが体調を崩した日のあとに、
その作業をこなす余力は、正直ありません。
支援があることと使えることは、別なのだと感じました。
奈良市議会で否決された「子ども医療費無償化」
今回この体験を書こうと思ったきっかけは、
奈良市の2025年12月議会で、
就学前の子どもの医療費を無料にするための補正予算が否決されたことでした。
否決されたのは、
「子ども医療システム改修経費」352万円。
現在500円かかっている就学前の子どもの受診料を、無償化するための施策です。(参考リンク:柿本議員note)
この予算について、
市議会で賛否が分かれ、結果として否決されたのですが、このニュースを知ったとき、私は正直、少しショックを受けました。
ただそれは、
無償化が否決されたから、というよりも、
その議論の中心が、私の実感とは大きくずれているように感じたからです。
500円がなくなることで受診が増えすぎるのではないか。
いわゆる「コンビニ受診」が起きるのではないか。
逆に無償化が実現すれば、受診控えが解消されて全ての世帯に平等に医療が行き渡るのではないか。
そうした議論が議会の中でされていたようですが、
私自身の体験からすると、受診をためらう理由は金額ではありませんでした。
問題は、
病院に行くまでの負担が、あまりにも大きいことでした。
そう感じたことが、自分の体験を振り返ってみようと思ったもう一つの理由でした。
これは「わがまま」なのだろうか

奈良では、車を持っている家庭も多いと思います。
子ども乗せ自転車があれば、私の感じた不便は、あまり問題にならないのかもしれません。
だから、この体験は少数派なのだろう、とも思います。
ただ一方で、奈良は今、都市部からの移住にも力を入れています。
都市部では、車を持たない子育て世帯は珍しくありません。
電車へのアクセスが良く、京都大阪の都会にも出やすく、徒歩圏の暮らしができることは、奈良の大きな魅力のはずです。
それなら、
車がなくても、子どもが体調を崩したときに詰まらない
そんな設計も、もう少し考えられていいのではないでしょうか。
無料かどうかより、「行けるかどうか」
この話は、
- 医療費を無料にすべきか
- モラルの問題なのか
そういう議論ではないと思っています。
私が感じたのは、
お金よりも、移動のハードルでした。
病院が近くにあることと、実際に連れて行けることの間には、思っていた以上に大きな溝があります。
この体験が、「子育てしやすい街」とは何かを考える一つの材料になればいいなと思っています。
