江戸時代には東大寺の錠前や鍵などを作り、明治時代に荷車の車輪作りなどを手掛けた鍛冶工房の鍛冶千。
現在は珈琲やかじせんとして営業されていますが、奈良町見知ルのイベントで特別に内部を一般公開されていたため見学してきました。
西洋の小屋風のキングポストトラスという変わった建築様式が特徴的で、和洋折衷が感じられる素敵な建造物でした!
奈良町見知ルで内部を特別公開
奈良旧市街地である奈良町(ならまち)は現在観光地として有名です。そんな奈良町にある普段非公開の建造物が多く特別公開されるイベント「奈良町見知ル」が2022年11月に開催されました。
今回ご紹介する鍛冶千(かじせん)は現在コーヒーの焙煎所として営業されていますが、このイベントでお店のお客さん以外にも特別に内部が一般公開されました。
明治時代の鍛冶工房工房跡・鍛冶千(かじせん)
鍛冶千は現在「珈琲やかじせん」としてされていますが、元々は明治時代後期に建てられた鍛冶工房でした。
江戸時代より以前の古い建造物が多い奈良町において、明治時代という比較的近世の建物はかえって新鮮で目を引きます。
奈良町の中でも「きたまち」という閑静な住宅街が広がるエリアの大通り沿いにあります。
10時ごろお店を訪れると、すでに人でにぎわっている様子の店内。
本当に何も買わないのに入っていいのかな…と思いながらもおそるおそる入ると、「コーヒー一杯無料でサービスしてますがいかがでしょうか。」という暖かいお言葉が。
「ありがとうございますー!」とコーヒーを待っている間、店内をくまなく拝見させていただきました。
まず目に入るのは、木製の高い独特な構造の屋根と天井のシーリングファン。蔵の天井のように広々としていています。
天窓もあり、明るいです!
この鍛冶千は建築様式が独特で、キングポストトラスという西洋の小屋組の手法を取り入れ建てられているそうで、なるほど古いイギリス映画に出てきそうな雰囲気があります。おしゃれ!
建築された明治期には西洋から入ってきたこの建築様式は一般に普及していなかったそうなので、鍛冶千は当時の最先端を行く建物だったのですね。
キングポストトラス…山形で三角形の屋根部分中心に束材がある構造。強度が高くデザイン性が高い。
カウンターの上が2階になっており、端にはしごがかけられていいました。洋合掌造りという広い空間をつくるためのに中に柱を建てない構造なので、建物内部が広く感じます。
登ってみたくなりますが物置として利用されているのか、こちらは立ち入り禁止。はしごに置かれた苔玉がかわいいです。
調度品も店内の雰囲気に合わせてレトロなものが飾られていて、おしゃれな雰囲気。見習いたいセンスの良さです。
古い木製の壁にチョークのようなもので壁に書かれた文字や記号に、時代を感じます。味がありますね~!音楽もお好きなようで、大きなスピーカー類もたくさん置かれていました。
ナチュラルな雰囲気できれいに手入れされた中庭もありました。どちらかというと洋風な雰囲気ですが、和風の石灯籠が絶妙にマッチしています。
そして、このイベントのために無料でふるまっているという珈琲をありがたくいただきました。
そんなに珈琲に詳しくありませんし良い舌も持ち合わせておりませんが、スッとしていてとてもおいしかったです!今までに飲んだことのない味でした。今度また買いに来ようと思います!
こちらはリノベーション済みで平成30年から珈琲やかじせんとして営業されているので、お店として営業しやすいようにカウンターなど一部はきれいに新調されていました。
現在は珈琲豆の販売のみですが、過去にはカフェメニューの提供もされていたそうです。こんな空間のカフェだったら時間が経つのも忘れてゆっくり過ごせそうですね。
カウンターからは建物外観の独特の骨組み(リベット)が見てとれます。
外から見ると、こんな感じ。赤っぽく錆びた感じがかっこいいです。これも時間が作り出した味ですね。
鍛冶千の歴史
鍛冶千があるきたまちエリアは、寺院関係者と共に寺院に関わる鍛冶職人や刀工が多く住む街でした。その足跡を今に残す文化遺産がこの鍛冶千です。最後に鍛冶千の歴史を簡単に紹介して終わります。
- 江戸時代…鍛冶千の祖先は東大寺の錠前や鍵、柱に巻く鉄の帯などをつくる鍛冶職人だった
- 明治後期…現在の鍛冶千の建物(今在家町)に移り住み、工房兼住居として鍛冶千の屋号で営業開始
- 街道沿いの立地を活かして主に荷車の車輪作り・修理をメインに行い軌道に乗り事業拡大
- 昭和初期…西田自動車鉄工株式会社へ社名変更(奈良県最古の自動車会社)現在も営業
- 太平洋戦争中…道路拡張のため曳家(解体せずに移動)される
- 軍の命令で薬莢を製造
- 戦後…看板建築に改造される
- 平成30年…珈琲やかじせんとしてオープン
(※参考…奈良町見知ル配布資料「特別公開B 珈琲やかじせん鍛冶千」)
珈琲やかじせんとしてオープンしたのは、平安時代から鍛冶で栄えた地域の歴史を後世に伝えたいという思いからだそうです。ちなみにお店の隣にあるのが西田自動車鉄工株式会社。
ただ文化財として保存されるだけでは「変わった建物があるなあ」ぐらいにしか思われずそういった歴史もあまり知られることはないと思います。
お店として営業されていれば実物を目にしてかつての文化に触れる機会があるので、そういった機会を作っていただけるのはとてもありがたいですね。
終わりに
鍛冶千は平安時代から続く鍛冶の町の面影を今に伝える貴重な鍛冶工房跡で、町の歴史を後世へ語り継ぐための重要な文化財です。
現在は珈琲やかじせんとして営業されているので、ご興味のある方はおいしい珈琲豆を購入するついでに内部の様子を確認してみてはいかがでしょうか。